ボーダーライン。Neo【上】
「あのさ。誘っておいてなんだけど……いいの? 早く帰らなくて」

「あ。……うん。大丈夫」

 気を遣わせないように笑いかけるが、檜は真顔で、ふぅん、と呟いた。

「……ま。俺には関係ないけど」

 言いながら、彼はどこか寂しそうな目をしていた。

 マンションの駐車場に入ると、六階の部屋番号を告げられた。

 車を降りながらあたしは、え、と首を傾げる。

「部屋は一緒に入れないから、十分後。遅れて入って来て?」

 檜はキーケースから予備の鍵を外し、あたしに差し出した。

「いちいち面倒くさいと思うけど」

「そんな事。無いよ?」

 彼を見上げ、穏やかに笑う。

 じゃあ、と言って彼は自動ドアの向こうに消えた。

 あたしはポケットから携帯を取り出し、時刻を確認すると共に一通のメールを作った。

【慎ちゃん。なんか今、友達と盛り上がってて。このまま泊まっても良いって言ってるから明日の朝家に帰るね?
 慎ちゃんが仕事行く時、送り出せないけど。ごめんなさい……】

 不思議と罪悪感は無かった。

 嘘のメールを送信すると、五分も経たずに返事が届く。
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