ボーダーライン。Neo【上】
 ーーあれ?

 彼女の首元を見て、ようやくそれに気が付いた。

「そのネックレス……」

 不意に呟くと、幸子は、え、と目を上げた。

「俺があげたやつだろ? まだ持ってたんだ?」

「あ。うん」

 幸子は片方の手で、ペンダントトップの向日葵に触れた。

 いつだったか。クリスマス前に二週間も学校を休んで、工事現場のバイトに明け暮れた。

 その成果があのネックレスだ。当時、僕は彼女を手に入れたくて頑張っていたよな、と思い出すと、現在《いま》の自分が虚しく感じられた。

「そう言う秋月くんこそ」

「え?」

「時計。いつもしてくれてるよね? テレビで見てたよ」

 そう言った後で、幸子は何故か泣きそうな笑みを浮かべ、僅かに動揺した。

 紫色の文字盤をした、クロノグラフの腕時計。僕は慌ててそれに目を落とす。

「気に入ってるから」

 動揺を悟られないよう、ペットボトルの水を再び傾ける。

 この時計は、十八歳の誕生日に幸子から貰ったプレゼントだ。

 着脱が容易なそれは、全体のボディが黒で、文字盤だけがシックな紫。僕が着る普段の服装に合わせて選んだのだと、当時の幸子は言っていた。

 あの頃を思い出し、つい無言になっていると、不意に幸子が呼びかけた。

「ねぇ、秋月くん」

 僕はハッとし、彼女を見つめる。幸子はマグカップを机上に置き、目を伏せた。
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