ボーダーライン。Neo【上】
 あたしは居たたまれなさに一度視線を逸らした。

「あたしの事。恨んでたんだね?」

「恨む??」

「……そうよ」

 檜は少し考え、そりゃあそうだろ、と口にする。

「あんなに好きだったんだ。疲れた、なんて。そんな一言で終わらせた先生に、ムカつかない訳ない」

 聞いていて、彼の怒りが鎮まるのを感じた。代わりに、その声には哀しみが滲んでいる。

 ただ、胸が痛んだ。

 それから檜はどこか思案顔で黙り込んでしまった。

 眉根を寄せたまま、煙草を口にし、煙りを吐き出した。その様子をジッと見つめていた。

 あの頃はここまで遠慮なく、彼を見つめる事など出来なかった。無意識のうちに、見納めておこうと思ったのかもしれない。

「いいよ?」

 程なくして口を開いた彼は、煙草の火を消した。

「抱いてやる。その代わり、タダじゃない」

「お金、とるの?」

 あたしは目を丸くし、瞬きした。

「そりゃあそうだろ? 何か見返りを貰わないと割に合わない」

 そこでようやく彼の視線と交わった。檜は少しだけ、目を細め、あたしを試しているように見えた。

 ーーお金を払うって事は。あなたは商品、そういう事よね? だったらあたしにとっても都合が良い。

 あなたに対する罪悪感を、これ以上増やさないで済むのだから。
< 224 / 269 >

この作品をシェア

pagetop