ボーダーライン。Neo【上】
 あたしは唇の端を持ち上げ、そうね、と頷いた。

「分かった。幾ら払えばいい?」

「金額は好きに決めていい。勿論後払いで構わないし。来いよ?」

 そう言って檜は立ち上がる。

 マゾっぽいと思うが、彼の偉ぶった口調に、少しだけ胸が高鳴った。

 こんな事をして、本当に良いのかな、なんて。迷いは少しも無かった。たった一夜の過ち、そう割り切ってあたしは結婚をする覚悟が出来ていた。

 檜はもっとあたしを傷付けて良いんだよ。贖罪にも似た気持ちで、あたしはそう思っていた。

 彼がいつも寝起きしている寝室に足を踏み入れた。ベッドを見て、ゴクン、と僅かな緊張を飲み下す。

 それでも彼と向かい合ってシーツの上に座ると、あたしの気持ちは過去に還った。

 感情が高ぶる。心拍が増し、体温が上がるのを感じた。

 檜は冷めた目であたしを見ていた。ベッドに押し倒された。

 五年前のあたし達なら、まずキスをしてお互いの気持ちを高め合ってから横たわっていたが、現在(いま)の彼には感情が伴っていないのだ。

 首筋に彼の吐息がかかり、舌を這わされた。右手で顎を掴まれ、荒々しくキスをされる。

 ワンピースを脱がせる動作も、下着を外す手付きも、昔の檜と違い乱雑だと感じた。彼自身、前と違って裸にはならない。
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