ボーダーライン。Neo【上】
 怒っているのか、それとも何とも思っていないのか。単なる義務感から、面倒でもこなさなければいけない仕事の一つ。嘘がつけない彼だからこそ、そう感じとっていた。

 けれど、それで良かった。

 あなたに酷い仕打ちをしたあたしだから、今更愛情をかけろなんて言わない。

 ただ、あれほどまでにあたしの心を夢中にさせたあなただから。

 あたしが檜を求めて、再び愛してしまうのは仕方のない事。

 彼は前戯も程ほどに、あたしの膝を割って入った。

 ーー痛くても良い。ただこうして、ずっと抱き締めていて。

「……っ、檜っ」

 あたしは堪らずに声を上げた。彼の服の中に手を滑らせ、背中に腕を回した。

 どうしてだろう? 何で今でもこんなに、檜が愛しいの?

 五年離れていた事なんて忘れて、熱に浮かされていた。

「……き、好きっ」

 ーー早くひとつになりたい。

 僅かに開けた瞳で、あたしは彼の目を見つめた。透き通る茶色の目を、捉えて離さない。そんな想いで。

 瞬間。檜の瞳が弱々しい翳りを見せた。幾らか眉が下がり、波が引くように冷静さを取り戻していく。

 腕の力が弱まり、檜はあたしからサッと身を引いた。

 ーーえ。

「……檜? どうしたの?」
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