ボーダーライン。Neo【上】
 彼が行為を中断するなんて事は、過去に一度として無かった。あたしは狼狽えた。

 檜は眉間を歪め、ベッドの端に座ると、あたしに背を向ける。そして中途半端になった服を、元に戻した。

「悪いけど。帰ってくれる?」

「え?」

 思い掛けない言葉に、表情が固まった。

「な。なん、で?」

 あたしは裸体にシーツを纏ったままで、唇を震わせた。

「あたし、何か……。檜の気に障ること」

「いーからッ! 帰れよッ!?」

 ビクッと肩先が揺れた。

 突如、冷水を浴びたように背中が寒くなった。この部屋に裸でいる事が禁忌に思え、慌てて衣服を拾い集めた。

 居た堪れない、そう思うと、鼻の奥がツンと痛くなり、意思とは関係なく、涙の粒が後から後から溢れ出る。

 あたしは無言で俯きながら、急いでワンピースを身に纏う。指先が震えて、背中のファスナーが上手く上がらないので、そのままにした。

「ごめん、なさ……っ」

 檜は背を向けたままで、振り返らなかった。

 リビングに置いたコートと鞄をひっ掴み、走って部屋を後にした。

 エレベーターホールに辿り着き、あたしはそこで崩れ落ちた。頬も耳も熱い。顔から火が出そうだ。
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