ボーダーライン。Neo【上】
 檜の男らしいプライドを知り、あたしは更に愛情を深めた。

 そして檜と付き合いながら、彼との結婚を夢見るようになった。

 一緒に暮らす夫婦となれば、もう逢えない不満を抱えなくていい。朝と夜しか過ごせなくても、一緒に眠れば心は満たされる。

 だからいっそのこと既成事実でも作って、彼が学生を終えたら一緒になれたらな、と考えた。



「……え。うそ、凄いっ」

 会話は今日のライブの感想から移り変わり、檜は芸能プロダクションへ所属する事になったと知らせてくれた。

 プロダクションの社長から貰った小さな名刺を見つめ、あたしは眉を下げた。

「だからさ。今年からボイトレ通って、ちゃんと頑張るつもり」

 長方形の、今はオーラさえ纏った特別な紙に複雑な想いが交錯する。

 檜に魅力と才能が有るのは、もちろん理解していた。けれど、こんなに早くその転機が訪れるとは思っていなかった。

 檜がトントン拍子にデビューして、芸能人になったら……あたしはどうなるんだろう?

 今のまま、付き合っていける? 途中で捨てられたりしない?

 ただでさえ、檜は女の子からモテるのに。そんな目立つ世界へ入ったら、今より更にライバルが増える。

 女性シンガーやモデルさん、グラビアアイドル、美人女優……あたしはきっと嫉妬ばかりして疑心暗鬼になる。

「幸子……?」

 突如として黙り込むあたしを、檜が怪訝に覗き込んだ。

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