ボーダーライン。Neo【上】
「え、あ。ごめん。これ返しとくね?」

「……うん」

 檜は、何だろう、と首を捻りつつも、戻った名刺を大事そうに財布へ仕舞っていた。

 試しに、子供が出来たらどうする? と訊いてみる。

 檜は、出来たの? と予想通り驚いていたが、もしもの話、とやんわり返した。

 彼は安心して笑い、そんなの、と続けた。

「結婚するよ」

 多分、その答えをあたしが欲していると分かったからだろう。まだ十七歳の檜は、決して現実的ではない答えをくれた。

 今回のライブで大手プロダクションへの所属を果たし、夢が叶う一歩手前の檜にとって、()()が足枷になる事は容易に想像出来たが。

 もう未来の旦那様は、檜しか考えられなかった。

 愛する人の成功より、あたしはまた自分本位な望みに躍起になった。

 檜の子供が欲しいとリアルに願うようになった。

 ***


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