ボーダーライン。Neo【上】
「それに、今日はちょっと顔が疲れてる。早めに帰ってちゃんと眠れ、な?」
僕は、体調を気遣う彼に、分かった、と表向きの返事をした。
少し離れた場所で、既に廊下を歩いていたメンバーに、おーい、と呼ばれる。
「とにかく。頼んだから」
そう言って竹ちゃんの肩をポンと叩くと、僕も彼らに続いた。
駐車場でメンバーと別れ、黒のセダン車に乗り込む。
ルームミラーで自分の顔を確認すると、両目が充血し、なるほど確かに疲れた目をしていた。
僕は芸能界という世界に身を置いてから、いや、正確に言うともっと前からだが、眠りに関して問題を訴える様になっていた。
煩雑な毎日のせいか、たまにうなされるあの夢のせいか。眠る事に対して、変に身構えてしまうのだ。
一口に言うと、睡眠障害のひとつである不眠症に過ぎないのだが。
なかなか眠りにつく事ができず、酷い時は今朝のように叫び声をあげて目覚めてしまい、強い不安や動悸、稀にだが過呼吸を起こす事もあった。
僕はフロントガラスの中央から脇に流れる、夜のネオンに目を留め、眉間にシワを刻んだ。
最早行き慣れたルートだが、疲れ目の時は流石に危ないな、と少しアクセルを緩める。
行き先は慣習化した場所だ。