ボーダーライン。Neo【上】

 メンバーの陸や陽介、特に従兄弟(いとこ)のカイに知られると、日々の仕事に支障をきたすと注意されるから、そこへ出掛ける事を敢えて報告しない。

 それに明日は出勤が早いので、元より長居をするつもりも無い。

 しかしながら、それでもわざわざ会って話をしたいと思える人物が、そこにはいた。

 僕は幹線道路を走り抜け、都内某所にある会員制のクラブへと向かった。

 到着したそこは、所謂(いわゆる)業界人の穴場スポットであり、厳重なセキュリティーで管理されているバーだ。

 安心を備えたバーでは、周りの目を気にする事無く酒が飲める。無論、車なので酒を飲むつもりはないけれど。

 僕は入口のセキュリティーを抜け、カウンターのあるフロアへ足を踏み入れた。

 黒の壁と、黒白の二色で敷き詰められた格子縞の床。宙に点在したオレンジのライトがそこへ反射し、夜の雰囲気を上品に演出している。

 ジャズ調の音楽をBGMに、カウンターや丸いテーブル席につく、常連と化した業界人。それぞれが思い思いにくつろいでいる、その雰囲気も好ましい。

 車を降りる際に掛けていた伊達眼鏡を外し、僕は店内を見渡した。
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