ボーダーライン。Neo【上】
すると目当ての人物も僕の存在に気付いたらしく、カウンター席の奥から、おーい、と手を振っていた。
顔を緩め、今晩は、と声を掛ける。相手は僕の顔を見て、困った様に笑った。
「飲みに来てるからって事で、一応メールしたけど。今日はちょっとまずかったかな?」
「え?」
着ているコートを近くの店員に預け、隣りのスツールに腰を下ろすと、彼、坂城 透さんは、僕の表情を見て眉をひそめた。
「顔色が良くない」
ああ、と笑い、ウェイターにジンジャーエールを注文する。
「最近どうだ? ちゃんと眠れてるか?」
「まぁ、日によっては。透さんの言う通り、できるだけ眠剤は飲まなくなりましたけど」
そうか、と言い透さんは目を細める。
彼は、バンドという形態では無いが、STORMという名でソロとして活動している。
僕とは所属事務所が異なり、同じボーカリストとして、言わばライバルに当たる人物だが。僕はこの世界で、年齢も二つしか違わない透さんを、唯一兄貴分として慕っていた。
異性では無いけれど、初めて会った時から何故か好感が持てた。
思えば、そこそこの警戒心を持ち、人見知りのある僕が、すんなりと心を許せたのは、従兄弟のカイを除き、彼が初めてだ。