ボーダーライン。Neo【上】
こうして共に飲みながら、取り留めの無い話をしていると、それだけで気持ちが楽になる。
不安定な心を落ち着かせる、言わば精神安定剤のような不思議な空気の持ち主だ。
透さんはグラスの中の氷をカラン、と揺らし、初めて会った時から思ってたけど、と無機質に呟いた。
「檜は何処か、冷めた目をしてるよな。それこそ人生の半分を終えたみたいな」
「はぁ? なんスかそれ。酷くないスか?」
僕は苦笑いから顔をしかめ、彼を見やる。
「ハハっ、まぁこれは冗談だけど」
「当り前ですよ」
透さんは前を向いたまま、若干思案顔で続けた。
「俺もさ。ハタチそこそこでこの世界に入って、右も左も分からないままに、ここまでやってきたけど。
檜みたいな寂しい目をした奴は初めて見たよ」
「……え」
「言ってみりゃ、後ろ盾を無くしたような。生きる糧を失ったような」
「そう……、ですね」
僕は目を伏せ、手元のグラスへ視線を注いだ。
「初めて味わった挫折が。自分でも思った以上にキツくて。その反動ですかね」
恐らく眠りに関しても、と内心で呟く。
「挫折、か」
透さんはどこか虚ろな目をする。その横顔を見つめ、「透さんもそういうのありますか?」と真顔で訊いていた。