ボーダーライン。Neo【上】
◇ ♀
「ありがとうございました」
商品の袋を手渡し、あたしは頭を下げた。
週に四日程度勤務しているお弁当屋さん。今日も朝から仕込みを手伝い、今はちょうどお昼時だ。
こじんまりとした個人経営のお店なので、バタバタとお客さんが押し寄せる事は無いけれど。
カウンターで注文を聞くあたしに対し、三人しかいない厨房は数が多くなると途端に忙しくなる。
再び自動ドアが開き、二組のお客さんが入って来た。
それと同時に、覚えのある音楽が耳に飛び込んだ。
声を聞いただけで分かる。今月配信された彼らの歌だ。
いらっしゃいませ、と再度声を掛け、携帯で曲を流すOL風の女性客二人をそっと見やる。
「これこれ、この次のシーン見てて? ほらっ」
息を凝らして画面を注視し、二人のOLさんは恍惚とした溜め息をついた。
どうやらプロモーションビデオに魅入っているらしい。
「はぁ~」
「もぉヤバい、超カッコいい~」
「だね~」
言いながら彼女たちは音を止め、メニューを覗きに来た。
「あのスズランみたいな髪型が良いよね? すそがピンピンはねてさぁ」
「分かる! 超可愛いよ、スズランヘアー」
なるほど、彼のあの髪型はそんな風に言うのか、とあたしは作り笑いを張り付け、思った。