ボーダーライン。Neo【上】
彼女たちはそれぞれ高菜弁当とヘルシー弁当を頼み、脇へ避ける。
先に待っていたお客さんに三つの弁当を手渡すと、ひと組のカップルが来店し、いらっしゃいませ、と挨拶する。
「だってHinokiに会いたいんだも~ん!」
「しょうがないだろ? 俺らがそう簡単に会える相手でも無いんだから」
「あ~、もうやだやだ、超マリッジブルー」
「何だよそれ」
OLの女性二人はカップルの片割れ、彼女の方を見てクスクスと笑った。
あたしは困った顔で微笑み、クリスマスライブの事を言ってるのかな、と考えた。
今月の二十二日から二十四日までの三日間、FAVORITEは都内の有名なホールでクリスマスライブを予定している。
恐らくそのチケットが取れなかった事を嘆いているのだろう、と。
カウンターにお客さんは居ないのに、彼女は壁に貼ってあるメニューを眺めて言った。
「てか、お腹すいた~。ね、勇介。何にする?」
「んー」
カップルがメニューとにらめっこしている間に、OLさんのお弁当が出来上がり、あたしは商品の袋を彼女らに手渡した。
「てかさぁ勇介。さっちゃん先生すら、もう既に連絡取れないじゃん?」
さっちゃん先生、という独特の呼び方に、あたしはピクリと反応する。ちらっと彼氏彼女の後ろ姿を視界に入れた。