ボーダーライン。Neo【上】
「…先生」

 入浴を済ませたせいだろう。秋月くんはTシャツにスウェット姿で、首にタオルを掛けていた。髪もまだ若干濡れている。

 どこかから聞こえる虫の鳴き声が、夜のしじまに響き渡った。

 静寂の中、秋月くんが言った。

「先生の彼氏、商社マンらしいね?」

 何の脈絡も前触れも無く、彼氏の話題を振られ、若干言い淀む。

「え? ええ、まぁ、そうだけど」

 愛想笑いを貼り付けたまま、内心では困ったなと思い、目を伏せた。

「やっぱさ、給料とかいいんだろうな~」

 生徒相手に彼氏の話題を口にするのも憂鬱で、あたしは地を見つめたまま無言でいた。

 どう言って話題を変えようか思案していると、やはり遠慮の無い質問が続く。

「先生はさ、その彼氏と結婚すんの?」

 そこで仕方なく目を上げた。彼の整い過ぎた容貌に、ドキッとさせられる。

 いつも思う事だが、秋月くんを見ると、必ずと言っていいほどバッチリと目が合った。

「どうしてそんな事訊くの?」

「え。どうしてって。えっと、世間話?」

 秋月くんは首を傾げて笑い、場を取り繕っていた。

 不意に、似ているなと思った。

 陽気で底抜けに明るく、デリカシーのかけらもない所まで、高校時代の元カレに似ているな、と。
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