ボーダーライン。Neo【上】
「それじゃあ、あたしは宿舎に戻るわね?」

 言いながら秋月くんとすれ違うと、追い掛ける声が足を止めた。

「付き合ってないから!」

 あたしはびっくりして振り返る。

「ナ。……水城は友達で、彼女とかそんなんじゃない」

 どういう意図があるのか、秋月くんは真剣な目で告げていた。

 生徒の色恋に何と答えるべきか言葉が見つからず、あたしは曖昧に笑った後、そう、と呟き、再び踵を返した。



 2

 野外活動を境に、どういう訳か、三日に一度のペースで秋月くんからメールが届くようになった。

 メールの内容は、テレビ番組や晩御飯の献立といった、取り留めのない日常会話だが。

 彼氏の浮気から、憂鬱な日々を過ごすあたしにとっては、秋月くんのそのメールが癒しとなり、充分な効果を発揮していた。

 メールを受け取るたび、ウキウキと気持ちが舞い上がり、自らが受け持つクラスの生徒に、良からぬ想いまで芽生えそうになる。

 一度、あたしの帰宅時間まで駐車場で待っていた彼を、部屋に上げた事もあった。

 一個人の生徒を特別扱いするのは許されない行為だけど。

 秋月くんとの会話は日頃の憂さを晴らしてくれると同時に、あたしは彼という人格に興味を持ち、個人的に話してみたいと思うようになっていた。

< 45 / 269 >

この作品をシェア

pagetop