ボーダーライン。Neo【上】
両手で耳を押さえるあたしに構わず、美波はその手首を掴んだ。
「さぁ~分かんない? 圭介への当て付けかも?」
「当て付けって」
「いいじゃない? あたしだって同じ事するんだもん!」
「……その割にはヤってないじゃん」
「……うん。ヤってない、よね~?」
美波は頬杖をつき、カウンターの奥をぼんやりと見つめた。
「男と女は根本的に違うんだよ。男はね、気持ちが無くても出来る生き物なの」
「あたし。そういう奴、だいっ嫌い!」
言いながらグラスを見つめ眉間にシワを寄せる。
「まぁね、サチにとっちゃ鬼門だよね」
あたしは真顔のまま目を伏せた。
グラスの中に浮かぶ丸い大きな氷を、カラカラと指で回す。
「嘘。個人的に、喋りたかったの」
美波が目を見張り、あたしを見た。ちらりと向けたこちらの視線とぶつかる。
「え、何が? その少年の話?」
無言のままコクンと頷いた。
「だから部屋に入れたんだ?」
「だって」
オレンジ色の光がユラユラと揺れる氷に反射している。
目が眩むその様をジッと見つめ、あたしはポツリと呟いた。
「キラキラしてるんだもん。秋月くん」
「アキヅキって言うんだ? その少年」
「あ!」
思わず口元に手をやり、しまったと顔に出てしまう。