ボーダーライン。Neo【上】

 インターホンの画面に茜の顔を確認すると、今開ける、と言ってオートロックを解除した。

 程なくして、鍵を回す音に続き、ドアが開いた。

「……来ちゃった」

 茜はえへへっと笑い、僕を見つめた。

 手に提げたビニール袋をガサガサと揺らし、彼女は壁にもたれて履いて来たブーツを脱いだ。その姿を横目に捉える。

「ごめんね? 檜が眠ったらタクシー呼んで帰るから」

「……ん」

 僕は頷き、再び窓辺に向かう。

 真っ暗な部屋を見ても、茜は電気を点けなかった。丁度ひと月前。同じ状況で、つけるなと指摘されたのを思い出したのだろう。

「檜、お腹は? ご飯系と、あと甘いものも買って来たけど」

「いらない」

「……そう。じゃあ、買い置きしてたハーブティー淹れようか?」

 僕は無言で首を振り、窓辺にある椅子に座った。

 先ほどと同様に空を仰ぎ見る。

 茜は暫く部屋の中央で固まっていたが、やがて足を出し、何見てるの? と訊いてきた。

「月の(かさ)

「かさ? 何それ」

 座った僕の目線に合わせて、茜は窓に広がる夜空を仰ぎ見た。

 僕は指を差して彼女に教える。

「あの月の周りに、大きな輪っかが見えるだろ? あれ、月の暈」

「ホントだ」

 茜は凄い、と言って目を見張る。
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