ボーダーライン。Neo【上】
「……抱いてよ? この間みたいに」

 やっと言ったか、としたり顔で見上げると、茜はカッと赤くなる。

 僕から僅かに距離を開け、震える唇で続けた。

「……檜がっ。手に入らない存在だってのは分かってる。大事な商品として見てる伯父さんに、許されない事もっ」

 確かに社長は許さないだろうな、とまた内心でごちる。

 立て膝をついた所に肘を置き、僕はジッと茜の様子を観察した。

「だけどわたしはもう、それで良いの。好きだから今のまま。そばにいられるだけで」

 ーーそばにいられるだけで?

「嘘だな」

「え?」

「好きだったら、全部自分のものにしたくなる」

 それが人間。どれだけ綺麗事を並べても、好きであればあるほど、独占欲は増すんだ。

「そ、そうだけど」

 だからと言って、茜の(もの)になるつもりも無い僕は、やはり性格がねじ曲がっている。

「…けど?」と言って、また上目遣いで彼女の心を試してしまう。

「それが出来ないから、わたしはただ」

「ただ?」

 消え入りそうな声で、茜はポツリと呟いた。

「……檜に、抱かれたいの」

 僕はスッと椅子から立ち上がり、茜に向かい合うと、背をかがめ、その耳元へ囁いた。
< 66 / 269 >

この作品をシェア

pagetop