ボーダーライン。Neo【上】

 あ、と口を開け、僕はスケジュール帳の五月へ、ページをめくる。

「そういえば結婚式っていつ? 五月だったら今からマネージャーに言って押さえて貰えば、俺も行けるかもしれない」

『え、マジ?』

 ああ、と言いながらボールペンを掴む。

 仕事を始めて間もなくは、こうして手帳を持つ事もなく、専ら携帯に予定を書き込んでいたのだが。その内それもままならなくなったので、生まれて始めて、手帳を持つ事にした。

 内田は嬉しそうに、『五月二十日』、土曜日なんだけど、と続けた。

 その日付に一瞬、ピクリと手が止まる。

 表情を固めたまま、(しばら)く無言でいると、檜? と名を呼ばれた。

「あ、ああ。二十日か、分かった」

 電話で良かったと思う。こんなに狼狽えた自分を、誰にも見られたくない。

 短く息を吐き、二十日の欄に、内田と奈々の結婚式、と書き込んだ。

 五月二十日。その数字の羅列を忘れる筈もない。

 幸子の誕生日だ。

『あ。それでねぇ? 檜』

 急に奈々が何か思い付いたように言った。

『さっちゃん先生も、来年の六月に結婚するんだってー』

『ばっ!! 奈々っ!!』

 慌てる内田に彼女は、何よ、と悪びれも無く言う。

 ーー六月……そっか。あと半年か。

 僕は無言で目を伏せた。
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