ボーダーライン。Neo【上】
『あー、檜? 実は昨日、弁当屋でサッチャン先生に会ってさ。直接本人から聞いたんだ』
弁当屋、と無意識に呟いていた。
『ああ。俺も奈々もビビったよ。先生、S区の弁当屋で働いてたんだ』
「そー……なんだ」
S区の弁当屋、と今度は胸の内で復唱する。
『あ、えっと。奈々が言ったからこの際訊くけどさ?
同窓会。サッチャン先生にも声掛けたけど、いいよな?』
確認する声は、僕を気遣ってか、どこか遠慮がちだった。
僕は唇を持ち上げ、良いも何も、とのんびりした口調で答える。
「二年二組の担任は桜庭先生なんだから。いいじゃん、呼べよ?」
電話で良かった、とまたしても思う。内心は焦りと動揺が支配していた。
幸子に会ってしまうかもしれないと思うと、どんな態度を取れば良いだろう、と無駄な心配までしてしまう。
やはり未だに僕は、幸子に会いたいと思っているのだろうか。
会ってどうする? あの頃はこうだったと思い出に浸れば何かが変わるのか? 亡霊の彼女ではなく、実際に現在の幸子に会って、話でもすれば過去を塗り替えられるのか?
自問自答を繰り返していると、そうだよな、と返事が届いた。
内田の声は、どこか拍子抜けしたような、安堵に満ちていた。
***
弁当屋、と無意識に呟いていた。
『ああ。俺も奈々もビビったよ。先生、S区の弁当屋で働いてたんだ』
「そー……なんだ」
S区の弁当屋、と今度は胸の内で復唱する。
『あ、えっと。奈々が言ったからこの際訊くけどさ?
同窓会。サッチャン先生にも声掛けたけど、いいよな?』
確認する声は、僕を気遣ってか、どこか遠慮がちだった。
僕は唇を持ち上げ、良いも何も、とのんびりした口調で答える。
「二年二組の担任は桜庭先生なんだから。いいじゃん、呼べよ?」
電話で良かった、とまたしても思う。内心は焦りと動揺が支配していた。
幸子に会ってしまうかもしれないと思うと、どんな態度を取れば良いだろう、と無駄な心配までしてしまう。
やはり未だに僕は、幸子に会いたいと思っているのだろうか。
会ってどうする? あの頃はこうだったと思い出に浸れば何かが変わるのか? 亡霊の彼女ではなく、実際に現在の幸子に会って、話でもすれば過去を塗り替えられるのか?
自問自答を繰り返していると、そうだよな、と返事が届いた。
内田の声は、どこか拍子抜けしたような、安堵に満ちていた。
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