ボーダーライン。Neo【上】
 どこか日本人離れした容姿と、透き通る独特の歌声で女性ファンのみならず、男性ファンをも魅了している。彼のファルセットは、心臓を震わせると以前テレビで話題になっていた。

 信号が変わった。

 交差点の中間地点まで歩を進めたところで、あたしは周囲のどよめきに倣い、ふと顔を傾ける。

 彼だ。

 都内で人々の関心を引く大型ビジョンの中に彼がいた。

 つり上がった眉に涼しげな目元、スッと通った鼻筋。瞳と髪の色素は極端に薄く、茶色一色だ。

 それって地毛? と過去に直接訊いた事がある。

 ーー「そうだよ? 目も髪も生まれつき」

 彼は彼らしい笑みを浮かべ、どこか得意げだった。

 いつ見ても綺麗な顔立ちだな、とうっかり吐息がもれた。視界にフワッと白いもやが浮かんでは消える。

 男臭さのない甘いマスクは女性の美しさを帯びていた。

 芸能人ならではのメイク効果もあるだろうが、ついマネキンか何かじゃないの、と思ってしまう。

「同じ世界の人とは思えないよねー」

 どこかで誰かが呟いた。同感だ、とあたしはひっそり頷く。

「てか、実物に会ったら絶対気絶するし」

 恍惚とした瞳がひとところに集まっていた。
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