ボーダーライン。Neo【上】
「二十五日は檜のオフなんだって! だから来れるかもしれないって!」

 え、と無意識に目を見張る。

 自分の心臓が一瞬、止まるような衝撃を覚えた。

 彼女の言葉を軽く受け流し、そうなんだ、と相槌を打ちたいのに、声が出てこない。

 やがて、うろうろと視線を宙に泳がせ、俯いた。動揺を隠しきれない自分がいた。

「さっちゃん先生? どうかした??」

 水城さんは不思議そうに首を傾げる。

 ちょうどその時。ヴィン、と鳴る音と共に自動ドアが開き、男性客が入って来た。

 あたしは取り繕う様に顔を上げ、いらっしゃいませ、と声を出す。

「あ」

 その顔を見て、ホッと気持ちが緩んだ。

「どう? 繁盛してる?」

「まぁ、それなりに」

 あたしは普段通りの笑みを浮かべ、肩をすくめた。

 来店したのは、恋人の慎ちゃんだ。

「誰? さっちゃん先生の知り合い??」

 水城さんは小声で訊ね、あたしと彼を交互に見た。目をぱちくりさせている。

 あたしは、彼氏だよ、と穏やかに微笑んだ。

 三年前、このお弁当屋さんで慎ちゃんと知り合った。

 システムエンジニアをしている彼の会社がこの店の近くにあり、どうやら彼は、あたしが働く前から店の常連客だったらしい。

 その常連客のひとりとして接していたわけだが、ある日いきなり、携帯番号を渡され、告白をされた。
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