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そう言いながら、彼は頭を掻く。

《ほんとは、こいつに捕まえてほしかったんですけどね。
色々証拠とかも残したのに、犯人が俺だって、そういう証拠。
こいつのこと、それくらい好きだったのかもしれないです。
でも、全然捕まえくれないし、なんか待てなくなって》
『...ふぅん、面白くなくなっちゃったんだ。』
《まあ、そういうことっす》

数日前までとは変わり果てた姿になった彼女。
そんな彼女を見て思い出したことが一つ。



「紫ノ宮さん、男の人ってどんな女の子を守りたいって思いますか?」
『え、なぁに?好きな子でも出来た?』
「す、好きって言うか......気になってる職場の同期がいて.........
でも、職業上強くあるべきだから、あんまり守りたいと思えないはずなのに、彼はもしこの連続殺人犯にお前が襲われそうになったら守るからなって言ってくれて...」
『へぇ、いい男じゃん』
「まあ、熱いけど変に冷めてるところもあって、なに考えてるかわかんないやつなんですけどね笑」
『へぇ、めちゃめちゃ惚れてんじゃん笑』
「そんなんじゃないですってば!」



あぁ、そうか。君も悪い男に騙されちゃったのか。
スーツケースを閉じ、再び彼と顔を見合わせる。



『いいよ、これは俺がちゃんと始末しとくわ』
《ありがとうございます。これ、》

そう言って渡された札束を受け取って、彼はまた気だるそうに歩いていった。

スーツケースを引きずり、棺に青白くなった彼女を横たわらせた。
いつもであれば、そのまま火の海に肉の塊を放り投げるのだが、今回ばかりは、人間が死を弔うような儀式を模してみようと思った。

『...それにしても、綺麗だ』

彼女の顔を初めて認識した。
血の気が引いて、陶器のように透き通った白色の肌、もう二度と開くことのない目を伏せた長いまつ毛、紫色になった唇。
そのどれもが美しい。綺麗、美しい。
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