キミの世界で一番嫌いな人。
父親の再婚相手だというその女は、少年の実の母親ではない。
いつ父と出会ったのかすらも、そもそも誰なのかすらも。
何ひとつ分からないなか、女の腕には小さな赤子が抱かれていた。
俺の弟らしいが、そうには思えなかった。
まるで他人の家族を見ているようで。
『あら、泣き出しちゃった。ミルクあげてくるわね』
『…ああ、』
この人が来たから俺は祖母の元へ預けられて、結果として捨てられたんだ。
この赤ちゃんが、いるから。
『失礼します。ーーー…です』
『あ、お入りください』
そんな病室に、また知らない顔が現れた。
名前を言っていたのだろうけれど、上手く聞き取れない。
スーツ姿の男は作業服の父とは正反対。
金持ちなんだろうなと、思った。
その男は俺を見つけると、なぜか笑う。
『おや、この子が理久くんですか?』
『そうです』
『これはこれは。初めまして。いくつかな?』
男は屈むように目の前にしゃがんでくる。
『…11歳』と、少年は答えた。