キミの世界で一番嫌いな人。
「なにしてんのアッキー!」
屋上のドアの前、チビは振り返る。
それでも俺は藤城サンをじっと見つめた。
この男は俺の母親の“トモダチ”の息子だ。
俺を平気で捨てた母親は、こいつの家族を選んだ。
「なに?要件なら手短にしてよ」
すると藤城サンは、スマホを取り出して俺に差し出してくる。
まるで「連絡先教えろ」と言っているみたいに。
……は?
なんで俺がこいつと交換しなきゃなんないの?
ぜったい嫌なんだけど。
俺、トモダチはひとりで十分。
「…さっきのあいつの女装写真、…送れ」
「……はい?」
なにを言ってくるかと思えば。
スコンッと、頭に小石が飛んでくるような反応をしてしまった。
「……あんたそういう趣味してたんだ」
「んなわけねぇだろ」
「まぁ俺も似たようなものかもしれないけど」
可愛い、なんて。
そう思ったから、今回の修学旅行で俺が自分で撮った写真はこれしかない。
とくに景色も撮らなかった。
そーいうの、別に興味ないし。
「…やだね。俺といつか喧嘩して俺に勝てばあげるけど」
チビは女だって秘密を知ってるのだって、俺だけでいい。