キミの世界で一番嫌いな人。
「おっと、ごめんよお姉さんっ」
「きゃっ…!」
ここは生徒が通らないような場所だったが、そいつの背中を押すように走り抜けて行った男がふたり。
咄嗟に倒れこんでくるから、反射的にも支えた。
まるで正面から抱き締めてるみたいだ。
「す、すみません…っ、もう現れません、ごめんなさいっ、」
それでもなぜか俺は、離れようとしている細い背中に腕を回していて。
なにしてんだ俺…。
なんでこいつなんかを抱き締めてるんだ。
……意味わかんねぇ。
「…俺の心臓持ってるなら…、お前は俺の分まで幸せになれよ」
気づけばそんなことまで。
ただ、本心だった。
人並みに動けないし、たとえ好きになった女がいたとしても助けてやれるような頑丈な身体は持ってない俺だから。
だからこそ、大切なものは作らないと決めていた。
この先ずっと。
それは、自分の手では守れないから。
「…なれないです、私は…幸せにはなりたくないです、」
「ふざけんな。それは俺が許すわけねぇだろ」
「私は…あなたの幸せがないと私の幸せは成り立たないので…っ」