キミの世界で一番嫌いな人。
なんだよそれ。
だったら俺の命は、なんのためにお前にあげたんだよ。
お前が幸せになってくれないと、俺はただ金のために売られただけになるだろ。
「ごめんなさい…、私が一生かけて償います…っ」
俺の胸で隠すような声は、震えていた。
別に泣かせたかったわけじゃない。
責めたかったわけでもない。
「私のこと嫌いなのに…っ、ごめんなさい、本当に…ごめんなさい、」
「…あぁ、嫌いだよ。大嫌いだ」
でも、こいつを責めてどうなる。
こいつだってあのときは10歳で、ただのガキで。
何もわからないまま、自分の身体に誰かの心臓の一部を移植されただけ。
「…泣くな。お前が泣いてると腹立つんだよ」
すげぇ理不尽だ。
こいつを泣かせてんのはいつも俺なのに。
でもお前は、馬鹿みたいに笑ってたほうがいい。
「…もう走っても発作は起きねぇのか」
「……はい…、」
「…そうか」
昔の、ほんのわずかな記憶の中にいる少女。
薄ピンク色の入院服を着ていて、長い髪を揺らして。
走るなと言われていたのに走っていて。
外を走りたいと言っていて。
それで、俺に、声をかけてくれて。
「…お前がいま走れてるなら、俺はそれでいい」
走らせてやりたいと、ランドセルを背負った俺は思った。
あんな病院を抜け出して、夕日でも太陽でも雲でも見せてやりたいって。