キミの世界で一番嫌いな人。




「…本当に会えちゃったのねぇ、あの子」



誰の話をしているのか、まったく分からない。

それでもその医者は窓際に立って、高く広がる青空をずっと見つめていた。


そして何かを探るようにゴソゴソと、白衣のポケットからあるものを俺に差し出してくる。



「…なんですか、これ」


「まぁ見てみなさいよ。読めるかはわからないけどね」



クスクスと笑いながら、俺に手紙のようなものを差し出してきた。


手紙、というよりは。

1枚の折り紙が折られているだけ。



「あなたに宛てた手紙よ」



きったねぇ……。

字、下手すぎだろ。


だけどそれは、今のあいつが書いたものじゃないからこそなのだろう。

漢字があまり使われていない文字は小学生くらいのものか。



「誰なのって、その子は走れるのって…、自分のために無理やりさせられたんだって泣きついてきたときがあってね」



あぁ、この女医は。

あいつの部屋に飾られていた写真の中で一緒に笑っていた医者だ。



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