キミの世界で一番嫌いな人。




“ふじしろ りく君へ。”


そんな、書き出し。

たぶん俺の名前は漢字では書けなかったんだろう。

だからせめて、“君”だけは漢字で書いたのだ。


10歳のあいつは。



「1度、あなたの噂が院内に回ってしまったことがあったの。そのときにいろいろ聞いちゃったらしくて、」



ふじしろ りく君、ごめんなさい。

私のために同じびょうきにさせてしまって、ごめんなさい。



「…こんなことになるなら私はこのままで良かったって、あの子言ったのよ」



私をうらんでください。
私をゆるさないでください。

私も、自分をずっとうらみつづけます。


でも私はいま、あなたのおかげで走れるようになりました。

青い空も夕日も見れます。



「ねぇ藤城くん。謝罪の先って、なんだと思う?」


「…謝罪の、先…?」


「えぇ、あの子が私に聞いてきたの。あんなの初めてだったから、私つい考えずパッと答えちゃったわ」



ふじしろ りく君、

あなたは今、走れますか?
それとも私のせいで走れませんか?


もし、あなたが走れないのなら。

私のようになっているのなら。



< 293 / 340 >

この作品をシェア

pagetop