キミの世界で一番嫌いな人。
いつも必ずそう言ってくれる。
どこにそんな根拠があるのか、どうせみんなそう言って嘘をつくんだ。
だっておれは、ずっとずっと頑張ってるのに。
おれだって、走りたいのに。
「ほんとに走れるようになる…?」
「なる」
「…もしそれでも走れなかったら…?」
「それはない」
そう断言してしまうのも、いつもこの主治医だけだった。
「どうしてそこまで言えるの…?」
男はふっと微笑んでから、卵焼きを口に運んだ。
「…もしお前が走れなくても、必ずお前のぶんまで走ってくれる奴が現れる」
「そんなこと…、できるの?」
「あぁ。ヒーローは本当にいるんだよ」
よし、昼休憩終わりだ───。
立ち上がって気合いを入れ直すように、伸びをする先生。
おれも同じように真似をして、戻ったら薬を飲まなきゃと笑った。
「あ!先生っ!じゃあ先生もヒーローには会えたの?」
おれの質問を待っていたように、振り向き様に微笑んだ先生。
「あぁ」と、はっきりとうなずいた。
「お前が食ったタコさんウインナーを作ったのは俺のヒーローだ」
そんな先生の首にかかった名札には。
“藤城 理久”
と、そんな4文字───。