九羊の一毛
電話を切った途端、近くから声がして振り返る。
いつの間にか自身も連絡を終えていたらしく、彼女は俺の顔を見て微笑んだ。
「ありがと……ちょっと、自分でもまだ信じらんないけど」
「私もびっくりしたー。逆転合格じゃん、やったね」
お互い肩の荷が下りて、表情が和らぐ。
会話が終わってしまって、どちらともなく視線を逸らした。
風が吹く。ふわりと彼女の髪を攫った。
その横顔に見惚れている自分に気が付いたのと同時、言わなきゃ、と拳を握る。
「……帰ろっか」
沈黙に耐え切れなかったのか、彼女が歩き出した。
「待って」
咄嗟に掴んだ腕が、細い。焦げ茶色の瞳が俺を射抜いた。
「俺……今日、西本さんに言おうと思ってたことがあって」
多分、バレている。俺の気持ちはとっくのとうに、彼女に気付かれている。
別段応えるわけでもなく、ただ友達としての優しさだけを与えてくれる聡明な彼女。そんなところも、好きだった。
「俺、ずっと……」
ずっとは違うか。いや、でも一年以上は好きだし。あれ、ずっとってどれぐらいのことだ?
「えっと、二年の時から西本さんのこと、」