九羊の一毛


その先が、言えない。
嘘だろって思う。こんな前フリ、告白しかないだろ。もう後になんて引けない。
分かっているのに、たった二文字が出てこない。喉の奥で詰まって、ぐるぐる回って、なんか吐きそうだ。

みんな何で告白できんの? かなり勇者じゃん? 全然無理なんですけど。

西本さんがじっと俺を見ている。黙って、静かに俺の続きの言葉を待っている。


「俺、ほんとに、」


駄目だ。情けなさすぎる。
どんなに経験を積んだって、本当の「好き」には何一つ敵わない。結局いつまで経っても余裕のない、かっこ悪い自分のままで。

好きじゃない相手と真似事をしたところで、経験したつもりになっているだけだった。好きじゃないから、緊張しないから、いくらでも余裕ぶれるんだ。

降参だ。もう、全く、歯が立たない。好きな子の前では為すすべもなくひれ伏すのみ。
みっともなく泣いて、縋って、慰めてもらって。ちっともかっこよくなんてない。全て剥がされてしまった、薄っぺらい俺。


「津山くんさ、」


痺れを切らしたように、彼女が口を開く。


「私のこと、好きでしょ」

< 101 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop