九羊の一毛
その先が、言えない。
嘘だろって思う。こんな前フリ、告白しかないだろ。もう後になんて引けない。
分かっているのに、たった二文字が出てこない。喉の奥で詰まって、ぐるぐる回って、なんか吐きそうだ。
みんな何で告白できんの? かなり勇者じゃん? 全然無理なんですけど。
西本さんがじっと俺を見ている。黙って、静かに俺の続きの言葉を待っている。
「俺、ほんとに、」
駄目だ。情けなさすぎる。
どんなに経験を積んだって、本当の「好き」には何一つ敵わない。結局いつまで経っても余裕のない、かっこ悪い自分のままで。
好きじゃない相手と真似事をしたところで、経験したつもりになっているだけだった。好きじゃないから、緊張しないから、いくらでも余裕ぶれるんだ。
降参だ。もう、全く、歯が立たない。好きな子の前では為すすべもなくひれ伏すのみ。
みっともなく泣いて、縋って、慰めてもらって。ちっともかっこよくなんてない。全て剥がされてしまった、薄っぺらい俺。
「津山くんさ、」
痺れを切らしたように、彼女が口を開く。
「私のこと、好きでしょ」