九羊の一毛


少し呆れた声。
ああ、やっぱり。彼女にはバレていた。

馬鹿みたいに何度も頷く。とにかくこの気持ちだけは伝えなければいけない、と焦燥感に駆られて、必死に肯定した。


「うん……うんっ、そう、なんだ……」

「ふうん、そうなんだ」


俺の言葉を復唱して、彼女は平坦に受け流す。


「……え、何?」


彼女に視線を送っていると、訝しげに眉根を寄せられた。


「あっ、えー……と、その、返事、とかは……」


恐る恐る申し出ると、「はあ?」と思い切り非難じみた声が上がる。


「えっ、いや、だって! 告白して、『そうなんだ』で終わるのはちょっと……俺も割り切れないっていうか、」


慌てて言い募る俺に、彼女は彼女で対抗してきた。


「まさか今のが告白だなんて言わないよね? 私『好き』って一回も言われてないけど?」

「それはっ……や、だって西本さん、俺に聞いたじゃん! 『好き?』って聞いたから、俺答えたじゃん!」

「あんなの答えた内に入んないでしょ、『うん』だけだったら誰でも言えるわ! 馬鹿!」

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