九羊の一毛
イメージと違う。ただそれだけだった。
「自分がクズなのは分かってるよ」
我ながら、どうしてこんなことを口走ってしまったのだろうとすぐに後悔する。
久々に平手打ちを食らって、気が立っていたのかもしれない。
放課後の教室。目の前にはクラスメートの女子が一人。
忘れ物をした、とばつの悪そうな顔をして入ってきた彼女は、俺の独り言に首を傾げた。
「そうかな?」
本当に、純粋な疑問。
そこに媚びはない。ただひたすらに不思議だ、とでもいった口調に、俺は顔を上げた。
否定は、しないらしい。
彼女は、そんなことないよ、とは言わなかった。だから何だという話だけども。別に否定されたところで、薄っぺらい答えだなと評価を下す気がする。
かといって肯定するわけでもなく。
強いて言うなら――そう、大して興味はなさそうだった。
彼女はそれだけ言って、教室から出て行く。何ともあっさりとした離別に、少し虚を突かれた。
まあ、ただのクラスメートだしな。そんなことを考えて、目を伏せる。
と、しばらく経ってから足音が近付いてきた。
それは教室に侵入して、俺の目の前で止まる。
「ちゃんと冷やさないと、せっかくのイケメンが台無しだよ」