九羊の一毛


よしよし、と私の頭を撫でた玄くんが続けた。


「羊ちゃんが可愛すぎて止まんなかった。……許して」

「う、」

「羊ちゃーん……」


顔を覆ったまま黙り込む私に、彼が縋るように言い募る。


「羊、大好き。ごめんね、許して……」


それはずるい。最終奥義使うなんて。

最近彼は、私への甘え方が一段と上手くなった。
初めての時、彼が一回だけ「羊」と呼んで。ぐっときて、うっかり「もっと呼んで」と口走ってしまった。
私がその呼び方に弱いのを知って、ここぞとばかりに甘えてくる。


「玄くん、ずるいよ……」


顔を反らして不服を述べれば、彼はたちまちきつく抱き締めてくる。


「だって好きなんだもん」

「理由になってないよ……」


呆れ半分、諦め半分。ため息交じりに言う私の左手を取った彼の手も、左だ。
ちゅ、と項に触れるだけのキス。甘い空気はとどまるところを知らなくて、彼は私の手を握りながら呟いた。


「あーあ、早く籍入れてぇ……」

「玄、くん……!?」

「俺の妻ですって言いたい……」


二人きりの部屋の中。大好きな人の熱を感じながら、際限のない愛に溺れる。


「ふふ。言うだけならタダだよ」

「えー……あ、婚約者ですって言えばいいのか」

「そうだねえ」


真剣に考え込む彼に可笑しくなった。
でもきっと、私だって十分可笑しくて、幸せだ。

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