九羊の一毛



「羊、もう着くよ」


聞き慣れた声が、意識の遠くの方で私を呼び起こす。
ゆっくり瞼を持ち上げれば、「ほら、窓の外見て」と彼の指が隣から伸びてきた。


「わー……真っ青だね」

「ね。すごい綺麗」


彼の言う通り、飛行機はもうそろそろ着陸するようだ。機内のアナウンスが流れて、シートベルト着用のサインが点灯する。

結婚式の翌日、そのままの流れで新婚旅行に来た。会社の人も披露宴に招待していたし、「次の日から行きます」と言えば休みも取りやすかったからだ。

私の両親が新婚旅行でハワイに行ったという話を小さい頃に聞いて、漠然と「私も綺麗な海に行きたいなあ」と思っていて。新婚旅行といえばハワイ、というイメージが自分の中に定着していた。
それならハワイにしよう、と彼が言ってくれて、今に至る。

空港から抜け、ホテルのチェックインを済ませ、一通り荷物をまとめたところで彼とベッドにダイブした。


「ふふっ、疲れたねえ」

「時差辛い……」

「玄くん飛行機で全然寝てなかったもんね。ごめんね、私呑気に寝てたけど」

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