九羊の一毛
のそ、と軽く起き上がった彼が、私の腰に腕を回して抱き着いてくる。
その頭を努めて優しく撫でながら聞いた。
「寝る?」
「んー……」
「寝ちゃおっか。疲れたね」
よしよし、と軽く背中を叩く。
彼の隣で目を閉じたところで、不意に唇に柔らかいものが当たった。
「羊ー……」
「ん?」
「子供、何人欲しい……?」
「えっ」
眠気が飛んだ。
すっかり開いた目で彼を見れば、とろんとした瞳が私を捕まえる。形のいい唇が弧を描いて、私のものを啄んだ。
「一人? 二人……? 俺と羊の赤ちゃん、絶対可愛いね……」
「ど、どしたの急に……!」
「俺らが家族だねって話」
「うん? そうだね……?」
的を得ていない返答なのは自覚しているけれど、これ以上に適切な言葉が分からない。
脳内でハテナマークを量産し続ける私に、彼は恍惚とした表情で告げた。
「俺ね、今すっげー……幸せ」
吐息交じりのその声が、あまりにも嬉しそうだったから。つられて嬉しくなった。
うん、そうだね。その気持ちなら、私も分かるよ。
「私も、今すっ……ごく幸せ」