九羊の一毛



「玄……もっと、して」


甘える声が耳朶を打つ。
ベッドに横たわる女の膝に乗り、俺は口角を上げた。


「なに……嫌だったんじゃないの?」


意地悪く聞くと、言葉を詰まらせたように相手は押し黙る。


「興奮してるんだ? 誰かに、聞かれるかもしれないって?」

「ばかっ、違う……」


最中の「嫌」は「もっと」。それが男の側の勝手な解釈なんだとしたら、どうしてそんなに吐息が色っぽいのか。

確かめるように動きを再開すると、案の定反応が良かった。
腰を持ち上げて、思い切り落とそうとしたその時。


「玄ー! そろそろ切り上げろ! 昼飯食いに行くぞー!」


馬鹿でかい声に、びくりと委縮したのは女の方だった。
思わずため息をつく。体を離して、仕方なしにカーテンを開けた。


「岬、声でかい。普通のボリュームで聞こえ……」


る、と最後の一文字は、掠れてしまった。

ドアの前にいる岬のすぐ横。しゃがみ込んだ小さな背中。見覚えのある髪質に、まさかと息を呑む。


「あれ!? 白さん、何でこんなとこに?」


岬は俺の視線で彼女に気が付いたらしく、素直に驚いていた。


「え、と……」

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