九羊の一毛
岬がドアを開けた。
二人分の熱が去った空間に、取り残される。
「玄」
後ろから袖を引かれた。振り返ると、俺の顔色を窺うような視線とかち合う。
「ごめん」
ベッドに腰かけた女の唇を軽く啄んで、髪を撫でた。
このキスを続行の合図だと思ったらしい相手が、俺を見て首を傾げる。
「ごめん、また今度」
はっきりと告げて腰を上げる。今はともかく、彼女の安否が気になった。
保健室を出て廊下を歩きながら、近くの教室を順番に覗いていく。
曲がり角の手前、ドアの閉まった教室を見つけて、急く気持ちを抑えきれずに中へ立ち入った。
「岬」
真正面で重なる二つの影。
俺の声に彼女から距離を取った岬が、椅子に背を預けた。
「……思ったより早かったね、玄」
何だそれ。俺が来ることを想定していたかのような口調に、眉をひそめる。
「何した?」
まさかあの近さ、キスでもしたんじゃないだろうな。もしそうなったら、こいつの顔に一発、二発、かまさなければならない。
「こわ。何もしてないって……手当てして、ちょっと仲良く話してただけ!」
「羊ちゃん」