九羊の一毛
俯いて弱気に主張した。
だって、これじゃあ全然狼谷くんの力になれていない気がする。むしろ機嫌を損ねているような。
固く拳を握って床を見つめる。
視界の片隅に映っていた彼の足が動いて、私の目の前で止まった。
「何で?」
頭上から優しい問いかけが降ってくる。
恐る恐る顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべた狼谷くんと目が合った。
「俺のこといっぱい見て。俺のこと沢山知ってよ」
「……え、あ、」
「俺のいいところ、もっと教えて?」
柔らかく細められた目に、胸の奥がじんわり温かくなる。
心臓に悪いから逸らしたいのに、なぜか目が離せなくて。結局、最初から最後まで彼のペースに飲まれてしまう。
「約束、ね」
そう言われてしまうと、頷くほかなかった。彼との約束は破れない。
私のそんな様子に狼谷くんはまた小さく笑って、歩き出す。
さっきまでとは打って変わって機嫌の良さそうな彼に、狼谷くんがいいならそれでいいか、と思い直して隣に並んだ。