九羊の一毛
至近距離で交わった視線。彼の瞳が微かに見開かれて、それから形のいい唇が横に引き結ばれる。
何か、難しいことでも考えているんだろうか。
数秒の後、力が抜けたように狼谷くんが頬を緩めた。
「……羊ちゃんが見つけられなくなるまで、かな」
「ええっ」
思わず不満げな声を上げてしまう。
そんな私に、彼は負けじと愉快そうに宣った。
「はは。頑張って」
励ましなんだか、挑発なんだか。
狼谷くんはくつくつと喉を鳴らして、私から離れる。
去った熱。落ち着かなかったはずなのに、いざなくなると涼しいかもしれない。
それでも背中は未だに熱くて、しばらくは集中できそうになかった。