九羊の一毛
スマホを勝手に見てしまったから、という彼女の罪悪感につけこんで強引に押し切ったのは俺なのに、羊ちゃんは「誕生日だから」と言って会計を済ませてくれた。
大した額ではないし、まあここでごねるのも無粋で、素直に奢られたのはいいとして。
プレゼント、とまで言われてしまうと、いま奢られた意味がない。
というか、どうしてそこまで。ただのお人好しなのか、まだ罪悪感が拭えていないのか、真相は不明だが。
「えっ、だ、だってあんなの味気なさすぎるよ! せっかくお祝いできるのに、あれじゃちょっと……」
味気ない、らしい。俺としては十分すぎるくらいむず痒かったというか、お腹いっぱいといったところだけれども。
「……じゃあ、ちょっと寄り道しよっか」
「え?」
プレゼントなんていらない。ただ、少しだけ。もう少しだけ、彼女と時間を共有していたいと思ってしまった。
羊ちゃんは俺の提案に戸惑った後、ゆっくり頷く。
「狼谷くん、どこか行きたいところあるの?」
「……羊ちゃんってゲームとかするの」
「えっ、ゲーム? うーん、しなくもないけど、下手くそなんだよね……」