九羊の一毛
へへ、と彼女の頬が緩む。無防備な笑い方に意図せず息が詰まって、咄嗟に顔を背けた。
俺は一体、いま何をしているんだろうか。クラスメートとゲーセンに来て、こんな生産性のない時間を過ごして。
あまりにも健全な友達付き合いをしている自分自身に、苦笑してしまう。
でも、今だけは忘れられる。
自分がどんなにクズでしょうもない人間でも、彼女といる時は、ただの男子高校生でいられた。彼女がそういう風に俺を扱うから。
「うーん……もっと下の方がいいのかな……」
ガラスの向こうを真剣に睨む横顔。
それを黙って眺めながら、彼女の白いうなじに目を向けている自分に気が付いて、勘弁してくれと内心頭を振る。
タイプじゃない。特別美人でも、可愛くもない。ましてや彼女は、そういう目で見ていい子じゃない。
そう思えば思うほど、目を逸らせば逸らすほど、脳内に鮮明に残ってしまう。
手を伸ばしたいと、決して願ってはいけない存在。伸ばしても届かない、焼け焦げてしまうと分かっているから。
体を苛む熱っぽい思考と戦っていた時だった。
スラックスのポケットの中、突っ込んでいた手に触れるスマホ。それが振動を伝えてきて、取り出した画面には着信相手の名前が表示されている。
「ごめん、ちょっと電話」