九羊の一毛
そう言う狼谷くんに「ううん」と首を振って、私は軽く手を挙げた。
「じゃあ、また明日ね」
挨拶をした後、沈黙が落ちる。
彼は黙った状態でにこにこと笑っていて、妙な空気に首を捻った。
「狼谷くん?」
どうしたんだろう。
不思議に思って名前を呼んだ時だった。
「……羊ちゃんと、相合傘しちゃった」
「えっ」
ふにゃ、と目尻を下げて、狼谷くんが嬉しそうに零す。
思わずといった様子で漏れ出た言葉に、私の方が恥ずかしくなった。
相合傘。確かに。
学校を出てからここまで考えなかったけれど、いざその単語を持ち出されると急にそわそわと落ち着かない気持ちになる。
「じゃあね。また明日」
固まる私を置いて、狼谷くんが傘から抜ける。
自分の心臓の音がうるさくて、彼に聞こえるはずはないのに、雨音が激しくて良かったと思った。