九羊の一毛


純粋な疲れからくるものでもあったのだろうか。
昨日の夜から今日の昼にかけてあんなに怠かったのが嘘のように、今はだいぶ体が軽かった。


「はー……やば」


目が覚めた途端に思い出してしまう。
初めて触れた彼女の唇の感覚と、必死に抗う甘い声。数時間前までこのベッドの上にいたのかと思うと、気が狂いそうだった。

羊ちゃんが帰ってから普段より幾分早い夕飯をとって、それからずっと眠っていた。
時刻を確認して息を吐く。二十時過ぎ。


『それで、いつか玄くんのお父さんにも会わせて欲しい』


彼女がどうして急にその話を持ち出したのか――母が何か言ったのだろうと見当はついた。
それでも彼女のその言葉に、俺は心から全てを受け入れてもらえた気がして、感情のリミッターが外れた。

ここがターニングポイントなのかもしれない、などと考える。
いずれ両親に彼女を紹介することになるわけで、遅かれ早かれ対峙しなければならない問題ではあった。

しかし、いざとなると気が重い。瞼を閉じる。


『狼谷くんは、世界一素敵な男の子なんだから』

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