九羊の一毛
先ほどから向こうが俺の様子に戸惑っているのは、空気感からもちろん伝わっていた。
それでも、ここまできて引き返すわけにもいかない。
「ああ……休み、だけど……」
「じゃあゲーム付き合って」
「え、」
上手い修復方法なんて知らないし、自分が器用だとも思わない。我ながら滅茶苦茶だ。
テレビ台にしまわれていたコントローラーを引っ張り出して、一つを相手に差し出す。数秒待っても受け取らず視線をさ迷わせる彼に、俺は半ば強引にそれを押し付けた。
「……玄、」
「言っとくけど手加減なしな。じゃないとつまんない」
きちんと話さなければいけない時はいつも逃げた。都合の悪いことは見ないふりをした。
ツケが回ってきたのだろう。こういう時にどうやって打開策を見つければいいか全く分からない。
しかし彼女の隣にこれからもいるためには、どうしたってもう、逃げ続けるわけにはいかないのだ。
「うわっ、何だよ今の!」
「手加減なしって言ったじゃん」
「そうだけど……あっ、ちょ、待って」
「無理」