九羊の一毛
ゲームをしている間はお互いの顔を見つめなくて済む。会話のペースもろくにつかめない状態で話すよりは、いっそ冗談交じりにでも言えた方がいいと思った。
「ははっ、玄、お前強すぎだって」
「そっちが弱いだけ」
「随分やってないんだから大目に見……あっ、また死んだ」
違う。「そっち」じゃなくて。
分かるだろ。言えよ。日和ってんじゃねえよ。言え、俺。
ぐ、と喉の奥が締まる。全身から汗が噴き出して、思考が霞む。
あの日、母さんには言えたのに、本人の前では絶対に呼べなかった。まだ認めたくなかった。その認可を出さないまま俺は、今日までのらりくらりと。
俺以上に苦い感情を抱えているはずで、押し込めたはずで。それでも隣に座る男は、俺を今まで一度も詰らなかった。なぜもどうしても頼むも、どれも口にしなかった。
許されたがっている。俺に呼ばれるのを。
でも彼以上に、俺が俺自身を許したかった。もういいだろと。もう呼んだって、認めたって、構わないだろうと。
「父さん」