九羊の一毛
そっと隣に顔を向ける。
彼の目からは透明な雫が零れて、頬を伝って、その唇がわなないた。
「うん……」
今一度、噛み締めるように彼が頷く。何度も、何度も。首を振りすぎて、涙が舞っていた。
馬鹿だな、と思う。俺に呼ばれただけで、大の大人がこんなに泣いて。
「……何泣いてんだよ、だっさ」
ず、と鼻を啜ってしまい、顔をしかめる。
「玄だって……俺のこと、言えないだろ……」
ペットが飼い主に似ると言うように、血の繋がりがなくても一緒に暮らしていれば似てくるのかもしれない。
でもそれは、そう思いたい人間の持論だと。今までずっと思ってきたし、やはり今でも変わらずそう思う。
だけど、そうだったにしても。
「……えっ? 何? 二人ともどうしたの?」
「あっ、いや、ゲームで本気になりすぎて……」
「ちょっとやめてよ怖いじゃん。せっかくいい湯だったのに~」
そうだったとしても俺は、この人に似たいと、その日強く思った。