九羊の一毛
「ドアが閉まります。ご注意下さい――」
下校時のバスの中、アナウンスが響く。
途中の駅前のバス停で降りると言っていた玄くんと、隣同士腰を下ろした。
これまで二人で出掛けたことは何度かあるし、スキンシップだって数えきれないほどしてきた。
それでも、こうして座ってみるとバスの座席は意外と距離が近いんだなと思う。今日の気温はかなり低いはずなのに、彼の近くにいると思うと体感温度が上がった。
「わ、」
あれこれ考えていると、突然玄くんが頭を私の肩に預けてくる。思わず小さく声を上げてしまって、慌てて口を噤んだ。
彼はそのまま頭をぐりぐりと押し付けてくる。
そして私の手の上に自分のものを重ねて、甘えた声で呟いた。
「羊ちゃんの手、あったかい……」
きゅ、と指が絡まる。それに応えるように手を動かすと、耳元で微かに玄くんが笑った気がした。
同じ外気に触れていたのに、彼の手は私より随分と冷たい。冷え性なんだろうか。
「羊ちゃん」
「ん?」
「可愛い」
「えっ」